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広域連携でターゲットと戦略を定め、地域のファン層を拡大

井口智裕氏.gif

新潟県魚沼市・南魚沼市・湯沢町・十日町市・津南町、群馬県みなかみ町、長野県栄村
一般社団法人雪国観光圏
代表理事 井口 智裕 氏

観光立国を実現するために2008年に観光圏整備法が施行されると、全国で49の観光圏が観光庁から認可を受けた。現在はさまざまな理由で13の観光圏に減少したが、そのなかで活発な動きを続けているのが、新潟、群馬、長野3県の7市町村が連携する一般社団法人雪国観光圏だ。活動をリードする雪国観光圏は、代表理事の井口智裕さんら9名の理事と3名のスタッフが、豪雪地帯の生活文化を新たな観光資源とするブランディングに取り組んでいる。

主な取り組み

◎人材育成のためのフォーラムの開催、勧誘
◎海外の先進観光地での海外研修の実施
◎食品の品質を保証する「雪国A級グルメ」の導入
◎宿泊施設をはじめ、さまざまな観光サービスの品質を保証する「SAKURAQUALITY」の導入
 など

広域観光の拠点としての新たな可能性にかける

――2008年に井口さんが牽引役となって雪国観光圏がつくられました。2013年には一般社団法人雪国観光圏へと移行して、さらに活動の場を広げていますが、スタートの背景、きっかけは何だったのでしょうか。


井口: 2008年当時、新潟では「2015年問題」、つまり北陸新幹線の金沢までの延伸が非常に大きな問題となっていました。特に、特急はくたかの乗換駅だった越後湯沢には新幹線が停まりませんから、湯沢を訪れる観光客が激減すると考えられたのです。

 湯沢町は確かにスキーエリアとしては有名です。しかし、温泉地として見た場合、地元にある越後湯沢温泉はそれほど有名ではなく、草津や伊香保などのほうがブランド力もあるため、湯沢町は大打撃を受けると予想されました。

 そこで、新潟経済社会リサーチセンターに調査を依頼したところ、予想とは違った結果が出ました。というのも、越後湯沢に温泉地としての魅力を感じているお客様の数は多くなかったものの、逆に湯沢をベースとして周遊観光をしているお客様の割合は非常に多かったことが判明したのです。


――温泉地としてではなく、観光の拠点としての価値が認められていたということですね。


井口:そうです。そのため、湯沢町を単体で活性化させるよりも、周辺市町村と連携を取ることによる相乗効果で活性化を図るべきだと考えたのです。

 しかし、湯沢町はその頃、町単体でロープウェーなどのプロモーションをしているというのが現実でした。隣町のイベント情報は湯沢の旅館ではわかりませんから、リサーチセンターの調査のように意識的に動かなければ、湯沢の持つ利点に気づかない状況だったのです。

 そこで、湯沢町の状況を改善するために7市町村のエリアで連携を取ろうと考えたことが、そもそもの雪国観光圏設立の大前提でした。

地域としての戦略を固め、ファンを拡大する

雪国観光圏の写真.gif 雪国観光圏が活動する地域は、毎年3m以上の積雪があり、半年近く雪に覆われる。そんな土地で冬を越してきた先人たちの生活に触れ、知恵に出会うことのできるような価値を雪国観光圏は提供している。

――しかし、3県にまたがるとなると、行政的なしがらみを突破するのは容易ではないと思いますが、そのあたりはいかがでしたか。


井口:そうですね。まず7市町村の行政や民間団体に呼びかけ、説明・要請・調整を何度も行いながら準備委員会を立ち上げました。そこで議論を積み重ねる過程を経て、観光圏推進協議会の設立にこぎつけたのです。やはり地方自治体の職員は首長を、首長は有権者を意識しますから、いろいろな問題も生じましたが、何とか乗り越えました。

 観光に関して言えば、行政はお客様を誘致するためのパフォーマンス的なセールスを展開するだけで、お客様の好み・考えをあまり意識していなかった。首長や担当部署の職員が、あちこちに出向いて名刺を配るのも悪くないのですが、そこにはお客様を誘致するという発想はあっても、お客様から選ばれるという発想はなかったと思います。むしろ、地域として受け入れ体制をつくり、戦略を決めることが大切です。セールスはその上で行ってこそ広がりが出てきます。

 ですから雪国観光圏では、まずこういう戦略のもとでやっているという方針を決定し、その考え方を整理しました。これが、雪国観光圏の発足当初の考え方のベースですね。


――どういった戦略で運営しているのでしょうか。


井口:地域にいろいろな資源があるなかで、まず7市町村が集まって中心軸を決めました。それが「真白き世界に隠された知恵に出会う」という地域独自のブランドコンセプトです。そして、この世界観に最も共感し、何度もリピートしてくれる可能性があるのは40代の独身女性管理職だと考えました。それがコアターゲットです。あとは、コアターゲットがこの世界観をどう感じたいかを、こちら側で体験プログラムという旅行商品の形に落とし込み、お客様に提供する。僕はこれをストーリーと呼んでいて、それをきちんと提供することが戦略になります。

 ストーリーをきちんと提供できれば、ターゲットの人たちはかなり満足し、地域のファンになって何度も訪れてくれます。その上で家族や友人を連れて再訪してくれれば、ファン層がだんだん広がる。そうした好循環が生まれれば、産業として成長していくわけです。

雪国A級グルメ1.PNG 

SAKURA QUALITY.gif 気候・風土に合った昔からの食を維持し、その品質を保証する「雪国A級グルメ」認証制度を発足させ、「AG304」として全国へ広げている。「SAKURA QUALITY」にも参加しており、観光サービスの品質の維持・向上に努めている。

――お客様を誘致するのではなく、広げていく発想なのですね。


井口:はい。しかし、このファン層を広げるために大事なポイントがあります。それは“品質”です。例えば、一度来てファンになったお客様が再訪した時に、料理の質が前より落ちていると、もう周りの人には薦めずにおこうという話になりかねません。

 常に同じ品質で楽しめるからこそ人に薦めるのです。地域に“品質”の概念がないと、コアなファンも広がりません。そこで、宿泊施設・食・体験メニューの品質をきちんと保つための品質認証を導入したのです。

 ここで大事なのは、認証に適う事業者の絞り込みだけで終わらせず、広範囲に品質向上を呼びかけ、啓蒙することです。例えば、地域の民宿などに勉強会やフォーラムへの参加を呼びかける。参加できない事業者がいても、改善の余地や可能性に気づいてもらうことで、行動につなげることができます。そうした行動によって改善が進み、お客様に薦められる品質になれば、認証先を増やすことにつながります。啓蒙・行動・認証という3つのプロセスに事業者を引き込み、丁寧にやりとりして導いていくことがマネージャーの仕事であり、雪国観光圏の役割なのです。

自分の事業をマネジメントでき、地域の人とつながれることが大切

――では、そういった役割を果たしていくために、今地方創生の現場が求めているのはどのような人材だとお考えでしょうか。


井口:イメージとしては35歳ぐらいで、地域外の企業でプロジェクトを任されていてマーケットを見ている人、企業での実績があり、自分なりのスペシャリティを持っている人です。そして、明確なビジョンと目標、問題意識、湯沢町に対する思い入れを持っていて、次のステップとして、湯沢町に住み続けたまま現場に入ってくれる人が一番の理想です。


――マネジメントのスキルや能力はどうでしょうか。


井口:地域づくりマネージャーの条件を満たしている方は大事にしています。条件というのは、自分がいなくても黒字経営で、マネジメントできている状態をつくれていることです。そのような本業の経験と実績が必要です。

 加えて視野の広さも重要です。抽象的な表現になりますが、時間軸と世界軸で自分の立ち位置を理解している人。具体的には、300年前から続く時間と100年後の時間と世代を意識しつつ、現在の自分の拠って立つ地域や位置を世界的な視点から理解している人ですね。

 繰り返しになりますが、自分の本業をマネジメントできていない人は、どんなに視野が広くても仲間として不充分。事業者として実績を残していない人がいくらスキルを持っていてもダメです。信用できません。

 マネージャーとしては、マーケティングや人材育成のスキルを備えている方が望ましいでしょう。しかし、マネージャーにとって一番大事なことは、事業者に信頼してもらえるかどうかです。なぜなら、事業者が頑張ってくれなければ、結局、“勝てるチーム”にはならないのですから……。そうした点から言えば、まずは人脈形成のノウハウを学ぶべきであって、人脈があってこそさまざまなスキルが生きてくると考えています。人とつながりを持った上で信頼を得るためには、実際にお客を得て、実績を見せることが必要です。そうして行政と事業とのバランスを取りながらマネジメントしていける人物が、これからは必要になるでしょう。


■ ■ ■


プロフィール

井口智裕氏.gif
 

井口 智裕(いぐち・ともひろ)


1973年新潟県南魚沼郡湯沢町生まれ。米国のEastern Washington University でマーケティングを専攻。大学で得た知識をもとに「自ら事業を推進したい」という思いを胸に帰郷し、現在は温泉旅館・越後湯澤HATAGO井仙の代表取締役を務めつつ、一般社団法人雪国観光圏の代表理事、合同会社雪国食文化研究所の代表社員も兼務している。

DATA

組織・団体名 一般社団法人雪国観光圏

住所 〒949-6101 新潟県南魚沼郡湯沢町大字湯沢2431-1

発足 2008年

Webサイト http://snow-country.jp


他組織との連携図

雪国観光圏取組体制.gif

雪国観光圏の写真.gif

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