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再開発事業を民主導で進め、中心市街地を再生

西本信顕氏.gif

北海道富良野市
ふらのまちづくり株式会社
代表取締役社長 西本 伸顕 氏

「ふらのまちづくり」は、富良野市の中心市街地活性化を目的に2003年に設立された。出資者は富良野市、ふらの農協、商店街団体、金融機関、商工会議所など59名。富良野市という特性を生かした「ルーバンフラノ構想」のもと、観光客の中心市街地への回遊と市民の中心市街地への滞留、そして超高齢化社会に対応するコンパクトタウン化を推進している。

主な取り組み

◎都市開発に関する企画・調整、設計、コンサルタント業務
◎商店街の販売促進のための共同事業などの企画、調査・設計、運営、コンサルタント業務
◎中心市街地の賃貸住宅の建設と管理運営、分譲住宅の建設と販売
◎公共施設等の管理運営受託に関する業務
◎飲食店の経営と受託・委託に関する業務
◎商業振興のための経営、技術、販売、財務に関する指導業務
 など

まちなかに賑わいが戻った!

――富良野というと、ドラマ「北の国から」の舞台で、ラベンダーの産地としても有名ですが、観光客は郊外に向かうばかりで中心市街地を素通りする状況が続いたと聞いています。


西本:そのとおりで、私がUターンした1986年頃は中心市街地がさびれていく一方でした。おまけに富良野駅の近くにあった大病院が移転したため、その周囲では店をたたむ商店が増えました。行政も駅周辺の再開発を手がけはしたものの、行政には行政独自のさまざまな制約があって狙いどおりにはいかず、結局、空き地や空き店舗ばかりが目立つようになりました。

 2006年「まちづくり三法」の改正をきっかけに、まちの将来を憂えた数名の仲間で、広大な病院跡地を利用して、観光客を呼び込み、それと並行して市民が中心市街地で生き生きと暮らせるまちづくり計画「ルーバンフラノ構想」を練り上げました。「ルーバン」はルーラル(田舎)とアーバン(都会)を合わせた造語です。都会でも田舎でもなく、両方の良さを備えたまちづくりを目指したのです。

 この構想のもとに、まず富良野の豊かな資源、農と食をテーマとした施設「フラノマルシェ」を2010年に立ち上げました。観光客には市街地を回遊してもらうためのまちなか観光の玄関口、市民には買い物がてらゆっくりとくつろいで滞留してもらう拠点です。

フラノマルシェ外観

病院跡地に2010年に完成した「フラノマルシェ」。 富良野の食材や加工食品の販売、飲食等の店舗、フリーマーケットなどのイベントを実施する多目的広場が整備されている。  

――それが大きなうねりとなり、富良野の中心市街地の景色が変わっていったのですね。

西本:今では珍しくもない「マルシェ」というネーミングを最初に世に送り出したのは、たぶん私たちだと自負しています。初年度55万人だった集客数は右肩上がりに推移していて、6年目を迎えた2015年は118万人に達しました。経済産業省の当初の予定を大きく上回る上昇率です。観光客の回遊化、市民の滞留化、総じて中心市街地の賑わいの拠点化にも成功した感があります。
 うれしいのは、賑わう人波が引き金となってまちなかに飲食店を中心に新しい店が増え、それに伴う雇用も増えたことです。数字で示せば、ここ5年間で40店舗近く増加し、雇用も100人以上増えたのです。近くのエリアに2015年にオープンした「フラノマルシェ2」にも11店舗が入りましたが、そのうち6店舗が新規創業。チェーン店などを誘致したのではなく、すべてがオリジナル店です。
飲食コーナー

「フラノマルシェ」内にある飲食コーナー。近隣の飲食店に配慮し、主にテイクアウトの店を誘致した。  

――「フラノマルシェ」に対して、地元商店の反応はどうでしたか。

西本:飲食業を中心に商店街の半分は建設に反対でした。当然ですね、客を奪われる危機感がありますから。だから「フラノマルシェ」には食堂やレストランを入れずに、テイクアウトにとどめました。そして、「観光客からラーメン屋さんを尋ねられたら、あなたの店を案内しますよ」というように説得して、何とか合意形成にこぎつけました。レストランをつくれば1億ぐらいの売り上げは確実だったと思いますが、それでは観光客の市街地回遊には結びつきません。ここに来て、そのまま帰ってしまうだけの通過型になってしまいます。私たちは“にじみ出し効果”と言っていますが、近隣の商店に波及効果があったことは数字で説明したとおりです。

中心市街地への人の流入を高める“本丸事業”が完成

――雇用の創出効果が大きいですね。「フラノマルシェ」の隣接区画には新たな施設がオープンしたようですが、これはどのようなものでしょうか。


西本:「ルーバンフラノ構想」の第2弾事業である「ネーブルタウン」で、商業・賑わいゾーンと医療・福祉ゾーンの2つからなるコンパクトタウンです。先ほど紹介した「フラノマルシェ2」は「ネーブルタウン」の商業・賑わいゾーンの中核となっています。

 医療・福祉ゾーンには、中心市街地への人の流入を高めるために、マンションのほかに、介護施設、クリニック、調剤薬局、保育所などを設けます。進行しつつある超高齢化社会に対応する中心市街地でのコンパクトタウン化が狙いで、3世代が歩いて暮らせるまちづくりを目指しています。

ネーブルタウン外観

2015年6月にグランドオープンした「ネーブルタウン」。中心市街地の居住人口を増やし、人の流入を高めるために、商業・賑わいゾーンと医療・福祉ゾーンを設けて、まちなかの利便性を高めた。  

――行政がやっても難しかった開発事業を西本さんのグループは成功させました。民間主導のほうがうまくいくのでしょうか。

西本:そうではなく、お互いに得意分野がありますから、コラボしていく関係が大事だと思います。そのなかで、経営や事業スキームの分野は民間が主導していくことが必要です。行政には経営するという経験がない。そして、サステイナブル、つまり持続するためには収益を上げなくてはならないという感覚も弱いです。
 そこは私たちのような民間が得意な分野です。 ただし、ある程度私たちに近いマインドを持った行政マンとの交流、あるいはそのような行政マンを育てることも大切です。彼らは私たちよりも法的な知識が豊富ですし、事務手続きも得意。また、それを駆使するノウハウも持っている。さまざまな方法で、行政とはコラボできる関係を築いておく必要があります。

地元で核となる若手人材の育成がポイント

――サステイナブルの視点が出ましたが、人材の育成などはどのように取り組まれていますか。


西本:やはり地元に根を待つ、地元に足場を構えた若手に、「この指とまれ」というやり方で育てていく形が望ましいと思います。一緒に事業に取り組みながら、何かを変えていく面白さ、新たな価値を創出していく楽しさを理解してもらう。

 私たちはもう9年間も「コアメンバー会議」という会合を毎週木曜日に開催しています。そこには、先ほど話したような行政マンも来ますし、商工会議所の人も参加する。私は期待する若手を「次世代コア」と呼んでいるのですが、私たちの会議のポテンシャルとスタイルを彼らに引き継いでもらわないと、将来的にまちが動いていかないと思います。

 まちづくり事業は、どこかからコンサルタントを呼んで何とかなる話ではありません。核になる人材が地元に存在して、それに専門家たちが関わっていくという形でないと、期待した結果は生まれないと思うのです。


――外部の専門家の知識や経験、アドバイスも必要とお考えですね。


西本:私たちのポテンシャルを外部から客観的に分析し、それをどう組み合わせたりつなげたりすると新しい価値が生み出せるかを提起してくれる、そんな能力を持った専門家のアドバイスは必要ですね。少し抽象的な表現ですが、そう思います。

 私は講演などで話すのですが、まちづくりに限らず、新しい事業を起こし、価値を創出するのに必要なのは、パッション・ミッション・アクションの3つの「ション」です。そして、まちづくりに即して言えば、最後のアクションは地元の人間にしかできないことです。今後どの地域でも、地元で核となる若手人材の育成が課題となるでしょう。


■ ■ ■


プロフィール

西本信顕氏.gif 

西本 伸顕(にしもと・のぶあき)

1952年富良野市生まれ。早稲田大学卒業。株式会社リクルート勤務を経て富良野市にUターン、家業の青果卸会社・株式会社北印を継ぎ、現在代表取締役社長を務める。ふらの演劇工房、富良野塾(倉本聰主宰)、インターネット富良野、ラジオふらの等、幅広いまちづくり活動に深く関わり、2009年ふらのまちづくり株式会社代表取締役社長に就任。著書に『フラノマルシェの奇跡』(学芸出版社)などがある。

DATA

組織・団体名  ふらのまちづくり株式会社

住所      〒076-0024 北海道富良野市幸町13番1号

設立      2003年10月

Webサイト   http://www.furano.ne.jp/furano-machi/


組織図

ふらのまちづくり組織図

他組織との連携図

ふらのまちづくり他組織との連携図.gif

ふらの地域写真.gif

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