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商品の背景にある生産地を売り出し、全国に村の“応援団”を

木下彰二氏

高知県安芸郡馬路村
馬路村農業協同組合 (JA馬路村)
常務理事 木下 彰二 氏

馬路村(うまじむら)の特産品として知られる無農薬ゆず製品は、果汁や皮を利用した食品から主に種子を原料とする化粧品にまで多岐に及び、「ゆずといえば馬路村」と言われるほどに有名だ。農協と行政が一丸となってゆず製品産地としての馬路村を売り出す方針が功を奏して馬路村ブランドが全国的に定着し、現在では馬路村の“応援団”になった観光客が年間6万人ほども訪れている。これからの課題は、ゆず製品事業のさらなる拡大と、観光事業やIターン・Uターンの定住対策の推進、行政や農協の人材育成による新たな運営体制の構築である。

主な取り組み

◎ゆず果汁、ぽん酢醤油「ゆずの村」、ゆずドリンク「ごっくん馬路村」などのゆず原料食品の生産・販売
◎ゆずの種子を原料とした各種化粧品「umaji」の研究開発・生産・販売
◎村の観光資源としての「ゆずの森」施設整備
◎JA出資法人「ゆず組合」によるゆず栽培用農地整備
◎JA出資法人「ゆず組合」による後継者不足の農地受託事業
◎馬路村役場で実施している以下の事業も側面から支援
 ・空き家を1棟当たり900万円でリフォームし、移住者に無料で10年間貸し出すという空き家対策を兼ねた定住対策
 ・山村留学で全国各地から小・中学生を受け入れ
 ・高校生までの子どもの医療費免除、保育園の利用料を無償化
 など

商品の背景にある田舎の村を売り出してブランド化を目指す

ごっくん馬路村 1988年に発売されて以来の大ヒット商品「ごっくん馬路村」。“ゆずの馬路村”を全国に知れ渡らせる広報隊長。

――現在、各種ゆず製品の生産地として馬路村は一種のブランドとなっています。その背景を教えていただけますか。


木下:馬路村にはもともと、自生していたゆずを自家栽培、自家消費してきたという歴史があります。それを積極的に栽培していこうという方向性が出てきたのは、森林組合がゆず苗の育成を開始した1963年ぐらいからです。その後、加工品への転換を模索していた時期に、それまでの村の主要産業であった林業の衰退が始まりました。それで、強い危機感を持つようになり、村でつくったゆずのしぼり汁を抱えて職員が全国の百貨店物産展を年間150日も駆け回りました。それが1985年頃で、その経験がそれに続く通信販売などによる製品直販のアイデアにつながっていきます。

 また、全国的にはあまり馴染みのなかったしぼり汁に代わって、なべ用の調味料としてぽん酢醤油「ゆずの村」を開発したところ、1988年に東京西武百貨店の「日本の101村展」という催しで最優秀賞(大賞)を受賞。同時期に一般消費者向けに考え出した1本100円のゆずドリンク「ごっくん馬路村」も農産部門賞を獲得し、「馬路村といえばゆず」という流れの発端となりました。そこで、林業衰退をフォローできるような産業を探していた村とも協力し、外部のデザイナーやプランナーの力も借りながら、ゆず製品そのものよりもその生産地である「馬路村」を売り出していこうという方針を立てて、ゆずの里馬路村をプロモートし始めたのです。

大規模な設備投資は行政と二人三脚で

ゆずの森入口 ゆず製品の加工場だけではなく、ゆずの馬路村をトータルにアピールできる観光施設として整備されつつある「ゆずの森」の入口。

――ゆず製品工場への投資総額は25億円になったそうですが、このような大規模なプロジェクトに踏み切ることに大きな困難は伴いませんでしたか。


木下:まず「ゆずの森」は、単なるゆず加工施設ではなく、村を知ってもらいたい、村を応援してもらいたいという思いで建築しました。

 旧営林署の敷地・施設を購入し、旧本庁舎は農協本所へとリノベート、森林鉄道の跡なども敷地内に残しました。また、施設内には加工場のほか、農産物直売所やパン工房などを併設して、観光客や視察に来られる方が馬路村のさまざまな魅力を実際に体験できる交流施設のような位置づけとしています。

 馬路村の特徴は行政とJAとの距離が非常に近いことです。かつては唯一と言っていい村の産業だった林業が衰退するなか、昭和から平成にかけて大きく事業規模を伸ばした農協のゆず産業を積極的に盛り上げていこうという機運が村全体で高まってきました。そのため両者の関係は、補助金をお願いする側と交付する側ではなく、村の再生を図る運命共同体のようなものになっています。

化粧品を新展開、ゆず関連商品の年間販売額50億円を目指す

umaji化粧品 「ゆずの森」施設内にある馬路村農産物直売所でひときわ目を引く「umaji」ブランドの化粧品。

――2011年には化粧品「umaji」の発売を開始されましたね。このような製品をつくるには化学的な知識に長けた人材も必要になりますが、どのように商品化を進めてきたのでしょうか。


木下:ゆずの種や皮にはペクチンという成分が含まれていて、昔からこちらでは種を焼酎に漬けたものを自家製化粧水として使っていました。ゆずは柑橘類のなかでも特に種が多い果物で、これまで種だけは有効活用されていませんでした。その種をなんとか生かそうということで、化粧品開発の話が生まれてきました。

 県や大学の研究施設と連携を取りながら10年ほど試行錯誤し、2009年に化粧品事業部を立ち上げ、2年間の準備期間を経て化粧品「umaji」シリーズを販売開始しました。もちろん、化粧品には化学的な専門知識が必要ですから、基礎研究の段階から研究員をリクルートし、現在も村内で研究開発を続けています。

 ゆず関連商品の販売額は平成当初は10億円程度でしたが、直近では30億円を超えるまで伸びてきています。化粧品の単価は1000円単位で、食品よりも付加価値が1桁高いので、将来的にはゆず関連商品の販売規模を50億円まで上げていければ村での雇用も増加し、村として自立できる一助になればと考えています。

定住対策と空き家対策を行う行政を側面サポート

――過疎化対策としてのゆず製品事業といった側面も行政へのアピール要因として大きいと考えられますか。


木下:先ほども申し上げたように、ゆず製品事業は村にとっての大きな産業となっています。1000人弱の人口のなかで、ゆずの栽培に関わっている農家は200人弱、JAの職員が100人程度ですから、割合だけを見てもその重要性がわかるはずです。

 JAは観光資源でもある「ゆずの森」、村案内所「まかいちょって屋」、村内唯一のスーパーマーケット「Aコープ」を運営していますし、出資法人の「ゆず組合」でゆず栽培用の農地整備や農地受託事業も行っています。残念なことに、ゆずだけで充分な収入を得ることはできませんが、過疎化の最大要因である「地域に仕事がない」という状態をいくぶん緩和できているという思いはあります。


――村から出て行った人に戻ってきてもらうUターンやIターンの対策は何か行われていますか。


木下:実際、JA職員の1割程度はIターン者です。一方、村には、どんどん住宅を建てるわけにはいかない事情があり、他方では空き家が増えているという問題もあります。そこで、村役場では空き家対策を兼ねた定住対策を実施していて、Uターン奨励金や引越補助金が出されます。あと、現在は住所があれば、高校までの子どもの医療費や保育園の費用は無料になります。行政がそういう対策を実施し、JAはそれを側面支援する形ですね。


他の地域との違いは“覚悟”と“行動力”

――こちらにはほかの農業協同組合などから多数の視察が訪れます。地域によっては、取り組みがなかなか成功しないところもあるかと思いますが、その差はどこにあるのでしょうか。


木下:条件は地域によって違いますが、最終的に、覚悟を持って実行できるかどうかにかかっているのではないでしょうか。つまり行動の有無です。視察の場合、どうしても相違点を探すことが主となってしまいます。でも問題は、そこから行動に移せるか否かに尽きる。やらない理屈を探すのではなく、やるかやらないかがポイント。つまり、リスクを負う覚悟ができるのかどうかということです。


――村全体の高齢化の進展もあり、後継者の育成が今後の課題になると思われますが、人材育成などにおける今後の課題をお話しください。


木下:ゆず関連事業は現在の組合長がゼロから立ち上げて骨組みをつくってきたので、今後は、集団でサポートし合える人の有無が重要になります。分野別でいいので、優れた人を補うような形で組織をつくっていくことがベストでしょう。目的をいかに共有していくかが今後を左右します。組合員の間でどうしたいのか、何を伝えたいのかを共有できないと、物事が動きにくくなってしまうでしょうね。


■ ■ ■


プロフィール

木下彰二氏  

木下 彰二(きのした・しょうじ)


1965年馬路村生まれ。大学卒業後、馬路村役場に入庁。2016年春まで勤務し、この間、地域創生事業なども担当した。同年4月以降は馬路村農業協同組合に転じ、現在常務理事を務める。

DATA

組織・団体名  馬路村農業協同組合(JA馬路村)

住所      〒781-6201 高知県安芸郡馬路村3888-4

設立      1948年6月

Webサイト   http://www.yuzu.or.jp/index.html


組織図

馬路村組織図.gif

ごっくん馬路村.gif

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