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行政に頼らず、住民自治で過疎の集落を再生

豊重哲郎氏

鹿児島県鹿屋市
柳谷町内会
代表 豊重 哲郎 氏

鹿児島県鹿屋市(かのやし)串良町(くしらちょう)に、柳谷(通称:やねだん)という、年間5000人以上が視察に訪れる集落がある。1996年から柳谷町内会長を務める豊重哲郎さんは、「行政に頼らない感動の地域づくり」を掲げ、全員参加のむらおこしを進めてきた。住民総出で稼いだ自主財源は、運動遊園の建設、高齢者福祉、青少年教育などに使われ、みなし法人として納税もしている。また、空き家を迎賓館として芸術家を誘致し、集落内にギャラリーやカフェもできた。

主な取り組み

◎休耕地を借りて住民総出でサツマイモを栽培
◎でんぷん工場跡地に住民の手で「わくわく運動遊園」を建設
◎独居・寝たきり高齢者宅に緊急通報装置、全戸に煙感知器・防犯ベルを設置
◎異郷で暮らす子どもや孫たちに父母や祖父母に宛てたメッセージを書いてもらい、母の日・父の日・敬老の日に高校生が有線放送で朗読
◎土着菌センターを建設し、家畜の悪臭対策に土着菌を活用
◎栽培したサツマイモで芋焼酎「やねだん」を開発・販売
◎空き家を迎賓館として芸術家の移住を誘致
◎明日の地域リーダーを養成する「やねだん故郷創世塾」を主宰
◎東日本大震災の被災地のNPOに軽ワゴン車「やねだん号」を寄贈
◎地元高校生を東日本大震災の被災地に派遣研修
 など

住民自治の基本は自主財源

――20年前に豊重さんが柳谷(通称:やねだん)の町内会長に就任された時、集落はどういう状況でしたか。


豊重:当時、やねだんの住民は325人で、高齢化が進んで、耕作放棄地や空き家が増えていました。それまで町内会長は、65歳前後の方が1年交代の輪番制で引き受けていましたが、それでは何もできないという話になり、「年齢的には10年早いけれど、哲郎に託すしかない」と私が推薦されました。


――そこで、行政からの補助金ではなく、自主財源での地域おこしを考えたのはなぜですか。


豊重:補助金頼みでは、集落も人も育ちません。住民自治とは、自分たちの問題を、自分たちの自由な発想で解決していくことです。そのためには、自主財源が基本です。ただ、自主財源を確保するためにコミュニティビジネスに取り組むと言っても、無関心な方もいます。そこで住民の数を生年別のグラフにして、「やねだんの人口は、このままでは30年後に半分になります。自主財源は年間100万円以上を目指し、それを高齢者の福祉、高校生以下の子どもの教育、地域力を高めていくための人材育成に使います」という話をしました。

 都会に出た子どもたちを振り向かせて、持続可能な集落にするためには、地域の教育力と文化を向上させなければなりません。高齢者を社会教育の師匠として、地域で子どもたちを育てる仕組みができれば、その子たちが成長した時、「やっぱり、やねだんで子育てをしたい」とUターンしてくるようになります。実際、20年前に高校生だった子がこの4~5年で7家族帰ってきて、5歳以下の未就学児が2016年度は14人になりました。これは大きいです。


地域活動に補欠はいない

――自主財源確保のために、まずカライモ(サツマイモ)の栽培に取り組まれたそうですね。


豊重:カライモは災害に強く、10アール当たり10万円の収益が見込めます。1998年に30アールの休耕地を提供してもらい、「収益金でイチローの試合を見にいこう」と、当時12人いた高校生に作業を任せました。この年は35万円の収益を上げ、福岡ドームに野球観戦にいきました。

 カライモ生産活動は2002年に1ヘクタールに拡大し、収益は約80万円になりました。これには集落の住民全員で取り組み、100人以上が参加する植え付けと収穫は、やねだんの風物詩になっています。


――住民全員で取り組むといっても、反対する方もいると思いますが。


豊重:もちろん、私に反目する頑固な方もいましたよ。そのなかに国会議員を後援していた方がいて、地元の親分格でした。たまたま忘年会で、その方のお子さんが15年間音信不通だということを知って、必ず私が見つけてメッセージをもらい、有線放送で流そうと思いました。

 やねだんでは毎年、母の日・父の日・敬老の日に、異郷にいる子どもや孫たちからのメッセージを、有線放送で高校生が代読しています。その方のお子さんが名古屋にいることがわかり、メッセージを書いてもらって、父の日にいきなり有線放送で流しました。そのあとでメッセージを届けにいったら、「俺を泣かせたのはお前だけだ。ありがとう」と。それ以来、集落づくりがぐっと動き出しました。

 300人の集落では、たかが1人とばかにできません。1人が反対すると、家族や親戚も含めて10人が反対に回ります。逆に、1人が「私は芋を植えにいく」と動けば、10人がそれに従います。だから、一人ひとりに目配り・気配り・心配りして、みんなに出番がある、やねだんは補欠のいないチームだと言い続けています。


やねだん未来館 住民手づくりの「わくわく運動遊園」と「やねだん未来館」

公民館 公民館にはやねだん住民の顔写真が貼ってある

――ほかにもいろいろな取り組みをされていますね。自主財源から住民にボーナスを支給したということも伺いました。


豊重:はい。串良町は畜産が盛んで、家畜の糞尿の臭いが悩みの種でした。土着菌を家畜に給餌すると、悪臭対策に効果があることがわかって、2000年から集落で土着菌づくりに取り組みました。また、土着菌を堆肥にすると甘くておいしいカライモができます。これを焼酎にして売ったらどうかと思いついて、2004年に芋焼酎「やねだん」が完成しました。この焼酎は韓国にも輸出しています。

 この土着菌や焼酎の売り上げ、視察の増加などで、2005年度には500万円近い余剰金が出ました。町内会費の全廃案もありましたが、「より夢があって感動を生む方策」として、全世帯にボーナス1万円を還元しました。現在は、85歳以上の高齢者に毎年1万円差し上げていて、皆さん、大喜びです。


――やねだんの次の取り組みは何ですか。


豊重:集落葬です。やねだんには80代で身寄りのない方も住んでいて、自分の葬儀やお墓の心配をされています。昨年、葬儀ができるように公民館を改装しました。祭壇をつくり、集落で葬儀をするための葬儀委員会を、民生委員を委員長にしてつくりました。祭壇の組み立てと撤収は葬儀委員がやります。集落葬は、霊柩車の手配、火葬、役所の手続きなどの費用を含めて13万円でできます。また、わくわく運動遊園の一画に共同墓地をつくって、やねだんで管理します。集落で最期を看取り、一緒に野辺送りをすれば、子どもたちにも命の大切さが伝わると思います。

リーダーが変われば地域は変わる

迎賓館 「故郷創世塾」の合宿場にもなる迎賓館

――豊重さんが塾長をされている「故郷創世塾」について教えてください。


豊重: 10年前、鹿児島県の伊藤祐一郎知事(当時)が視察に来られて、「鹿児島県にミニ豊重を10人つくりたい。ここを拠点にしてリーダーを育成してくれないか」と要請されました。そこで、2007年11月に3泊4日のリーダー養成塾を企画して、鹿児島県庁と市町村の職員を対象に「熱血感にあふれる者」を募集しました。この時参加した9名が、「故郷創世塾」の1期生です。第2回からは募集を全国に広げ、参加者も増えました。今度の第20回は定員50名ですが、全国から58名が参加予定です。


――「故郷創世塾」では何を学ぶのでしょうか。


豊重:私はテクニックではなく、人徳の養成塾だと言っています。まず、いかに人間力を磨くかです。例えば1日目の夜に、参加者に目を閉じてもらって、「これまでの人生で自殺を考えたことはありますか」と聞くと、必ず10人以上が手を挙げます。そうやって己を省みることから始めます。次に、他己満足、つまり他人の力や才能をいかに引き出すかを徹底してやります。さらに、講師や卒塾生、集落の高齢者から現場でなければ聞けない話を聞き、夜中まで議論します。


――どういう方が参加されるのですか。


豊重:参加者の7割が行政職員、3割が民間です。これまでに19回開講して、卒塾生は780名になりました。全国に8つのやねだん支部ができ、自律的に活動を始めています。例えば、やねだん秋田支部は、由利本荘市で「やねだん秋田塾」を開催しています。やねだん熊本支部には、今回の熊本地震で全国の仲間から支援物資が集まり、被災者に届けました。東京では霞が関ナレッジスクエアが、全国の卒塾生をつなぐ場所になっています。


――人材育成では、今後どういう展開を考えていますか。


豊重:創世塾で学んだことが自分の学びに終わって、なかなか組織の活動に結びついていかないことが課題でした。そこで、卒塾生のなかから50人を対象に「故郷創世スーパー塾」を始めました。これは、高度な地域再生リーダーの養成を目標としています。今後は、さらにランクを1つ上げて、20人を対象に「超スーパー塾」をやりたいと計画しています。1回で終わるのではなくて、コーディネーターがうまく育ってきて、リーダーが育成できて、超リーダーが育つという、この段階的なカリキュラムはいいかもしれません。


■ ■ ■


プロフィール

豊重哲郎氏  

豊重 哲郎(とよしげ・てつろう)


1941年鹿児島県生まれ。1960年県立串良商業高等学校卒業、株式会社東京都民銀行入行。1971年にUターンして串良町上小原(かみおばる)でうなぎ養殖を始める。1981年うなぎ専門店・うなぎの川豊創業。1985年民間主導型むらおこしグループ・串良やったる会結成。1996年うなぎの川豊閉店と同時に、うなぎのエキス・ヘルプアイ本舗を創設。1996年より柳谷町内会代表。2007年より、「やねだん故郷創世塾」を開催。

DATA

組織・団体名  柳谷町内会

住所      〒893-1605 鹿児島県鹿屋市串良町上小原4694-2

Webサイト   http://www.yanedan.com/


組織図

やねだん組織図.gif

やねだん未来館.gif

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