地方創生「連携・交流ひろば」 | 地方創生のノウハウ共有掲示板と実践事例紹介全国で活躍する地方創生専門人材-学びと実践の事例-専門人材19:地方創生は自分の人生の課題/地域の「クセ」を最大限に活かし住民が誇れるまちをつくりたい
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住民組織の強化から始まる歴史的まちづくり

住民組織の強化から始まる歴史的まちづくり

井上さんプロフィール写真.jpg


氏名

井上 遼一郎さん

(いのうえ・りょういちろう)

所属 法政大学キャリアデザイン学部2年
プロフィール 埼玉県秩父市出身。埼玉県立熊谷高等学校を経て、現在は法政大学キャリアデザイン学部在学中。高校2年生の冬に新型コロナウイルスの影響で学校が一斉臨時休業となったのを機に、生まれ育った秩父への思いがつのり地域の問題に目覚める。大学入学後は、NPO法人全国てらこやネットワーク、一般社団法人Japan Education Labでの活動のほか、子どもたちに地元秩父を知ってもらう活動を展開する「こどものまちプロジェクト」を自ら立ち上げるなど、地域と関わる活動を精力的に進めている。

地方創生は自分の人生の課題/地域の「クセ」を最大限に活かし住民が誇れるまちをつくりたい

白馬バレー(長野県北安曇郡白馬村・小谷村)において現地が抱える課題を解決するためにフィールドワークを重ねて施策を発表するプロジェクト、「学生が主役の地方創生プロジェクトin白馬バレー」。プロジェクト参加者の一人で、「地方創生は自分の人生の課題」と語る法政大学2年の井上遼一郎さんに現地での学びや日頃から奮闘する秩父のまちづくり活動などについて伺いました。

 

子どもたちに地元をもっと知ってもらって、地域のつながりを作りたい

──井上さんは大学入学からの2年間で、これまでも多くの地方創生に関する活動をされていますね。活動を始めたきっかけを教えてください。


井上:新型コロナウイルスの影響で学校が一斉臨時休校になって実家の秩父で過ごしているときに、「秩父って今どうなっているんだろう?」という素朴な疑問が生まれました。コロナで日本中元気がなかったし、秩父もそうだと同じだと思ったんです。調べてみると秩父は毎年1,000人ずつ人口が減っていて高齢化も顕著ということがわかり、そこから地域の問題に目を向けるようになりました。
高校3年生の12月までラグビー部に所属しており、高校卒業後は浪人を経て法政大学のキャリアデザイン学部へ進学しました。キャリアデザイン学部は人生をキャリアととらえて学ぶところで、私自身は社会教育・生涯学習のゼミに所属して日々学んでいます。
地方創生に関する活動では、大学入学と同時に、全国のお寺を拠点にそれぞれの地域ごとに活動をしている「全国てらこやネットワーク」に参加しました。そこでは主に小学生と大学生がお寺で合宿をしたり、ワークショップを開催したり、農家さんと食について学んだりと、大学生による子どもの居場所づくりなどを行っています。また、「Japan Education Lab」では、高校生の総合的な探究の時間のサポートにも取り組んでいます。いま特に力を入れているのは私が中心になって立ち上げた「こどものまちプロジェクト」です。秩父には大学がないので、否応なく大学進学で秩父から外に出ることになります。そのため大卒新卒者はそのまま秩父の外で就職する傾向にあります。だからこそ、高校生・大学生のうちに自分たちが育った秩父のまちに目を向けることが大事だと思って、まずは自分ひとりでこのプロジェクトを始めました。初めて企画を開催してから6ヶ月を経過した今では30名を超える学生が所属するほどになりました。プロジェクトを本気でサポートしていただいた周囲の方々や、協賛いただいた20社を超える地元企業はじめとする秩父の方々には感謝してもしきれません。


──秩父をよく知ってから社会人になる、と大学生のうちに発想できるのが素晴らしいですね。

井上:秩父にはいいところがたくさんあるのに、それを知らないまま外で就職や移住をしてしまうのはもったいないと思います。秩父は子育てするにはあたたかい環境なんです。家庭を持ったときに子どもと戻ってくるのもいいし、秩父の外で仕事をしていても秩父のよさを他地域の人に広めてもらいたいという気持ちが強く、一人一人が持つ故郷への思いを今以上に高めていきたいんです。「こどものまちプロジェクト」では地元の高校生や大学生と活動することを重要視していて、今のメンバーは大学生が25名、高校生が6名で秩父市出身率が90%を占めています。プロジェクトの目的は、子ども・若者の主体性と協調性を育むことと、地域のつながりを作ることです。

秩父の子どもたちに地元を好きになってもらう活動「こどものまちプロジェクト」を進める井上さん(後列一番左が井上さん).jpg

秩父の子どもたちに地元を好きになってもらう活動
「こどものまちプロジェクト」を進める井上さん(後列一番左が井上さん)


子どもにフォーカスした活動をすると地域は動く

──「子ども」を主役にするところが、社会教育を志向する井上さんの思い入れですね。

井上:いつか地元に戻ってきてもらうには、小さいときに地元を好きになってくれることが大事だと考えています。「こどものまちプロジェクト」では大小さまざまなイベントを開催しています。イベントに参加した子どもたちには「あのとき秩父のことを一生懸命やっているおにいさんやおねえさんがいたな」「自分もあんなふうになりたいな」と思ってくれたり、「秩父神社は徳川家康が建てたと言っていたな」と思い出したりしてくれるような地域へのポジティブな印象を残してあげたいです。


──ポジティブな印象を残すことは地方創生の種まきといえますね。活動を始めて1年。手ごたえはありますか?


井上:地域の多くの企業さんがスポンサーになってくださり、関心を持ってイベントを見に来てくれます。メディアの取材も増えてきました。地域でのつながりを作ることはこのプロジェクトの目的の一つですが、子どもを中心にしたまちづくりをすると、子どもを若者が応援する、若者を地域住民が応援する、地域住民が企業や行政と連携してつながりを作って応援していく――というように好循環が生まれます。こども中心のまちづくりは地域を活性化できると思っていますし、実感しています。地元の方々には本当に感謝しています。


白馬村と小谷村で「やりたいこと」と「できること」の
違いを目の当たりにし、成長を実感

──今回の地方創生カレッジのプロジェクト、「学生が主役の地方創生プロジェクトin白馬バレー」に参加した理由を教えてください。

井上:地方にはそれぞれ特色があります。ほかにはない「クセ」のようなものです。私は、それぞれの地域のクセを最大限に活かすことが地方創生のいちばんのポイントだと思っているんです。白馬村と小谷村にもその場所にしかない「クセ」が必ずあるはずで、それは実際に行ってみないとわかりません。現地へのフィールドワークが組み込まれている点に魅力を感じて、その場所の特色を生かしたまちづくりに携わりたいと思って参加させていただきました。


──これまでのまちづくりとの違いや共通点はありましたか?


井上:今回、自分たちのグループで取り組んだテーマは「雇用・産業」でした。衝撃的だったのは、観光の閑散期と繁忙期がものの見事に分かれていることです。調べてみると観光客数の差は最大で約200倍。そこを何とかすることが白馬村と小谷村の活性化のカギになると思いました。また、これまでに取り組んできた活動で訪れた地域では、どこでも自分たちの地域に熱い思いを抱く方がいたのですが、フィールドワークを通じて白馬村と小谷村でも同じように熱い思いを抱く方々と意見交換することができました。どのような場所でも自分の地域への強い思いを抱く人は必ずいるということを再確認できました。


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フィールドワークでは白馬村・小谷村の各所でインタビューを行いながら
現地の課題や特徴を聞き取った(右から二番目が井上さん)


──地域への思いの差はどこから生まれると井上さんは考えていますか?


井上:五感で地域を感じることがいちばん大きいのかなと思います。例えば秩父だとユネスコ無形文化遺産に登録され、日本三大曳山祭りの一つである秩父夜祭や、四方を山に囲まれた秩父盆地という地形、荒川上流のあの独特な水の音、そのような原風景を抱いている方が多いのではないかと思います。白馬村と小谷村は山の荘厳さや雪景色の素晴らしさでしょうか。現地でお会いした方のなかには外国人観光客から注目されているということが自慢だという方もいらっしゃった。そうした感情が地域の「クセ」につながっていると思うんです。そこに心があるということです。


──クセ=個性、を外に発信できる魅力にできるかどうかということですね。そのために白馬村と小谷村で考えた施策はどういったものですか。


井上:当初は白馬村と小谷村に愛着を持つ「関係人口」を増やすためにテレワークを中心にした施策を検討していましたが、ターゲットの設定に行き詰まり、大学生を対象にした「インターンシップ」に舵を切りました。既存のテレワーク用の施設で授業を受けるようにするなど現実性のある施策づくりを意識しました。
苦戦したのは、相手を説得するためのエビデンスやロジックの立て方のところです。プロジェクトを通じて「やりたいこと」と「できること」のギャップをどう乗り越えるかが大事ということに気づきました。現地での2度のフィールドワークで地域の方にインタビューを重ねてわかったこともたくさんありました。現地を訪れないとひとりよがりになってしまうので、実際に目を見て話すということはとても大事だということや、地方創生の施策を打つときは地域の特性を踏まえずに均一平等に進めることは難しいということを学びました。地域の特性に合わせた施策を考える重要性を今回のプロジェクトで再認識できました。

──地域の方の反応はいかがでしたか?


井上:自分が思いを込めた施策に共感していただいたことはうれしかったです。ただ、私が思うように相手に意図が伝わっていなかった場面もありました。質問を受けてそのことに気づかされました。説明の仕方にも工夫が必要ですね。私は将来、何らかの形でまちづくりに関わっていきたいと思っています。地域の方との対話でテーマになった事業に必要な予算の組み方や、費用捻出の方法などというところは、普段の活動では得られない視点でとてもためになりました。

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白馬村と小谷村の両村長との記念写真(右から三番目が井上さん)


地方創生の世界に、恐れず、胸を張って飛び込んで!

──白馬村と小谷村のプロジェクトでは事前の学習として地方創生カレッジのeラーニング講座をいくつか受講されましたね。内容はいかがでしたか?

井上:大学の先生が実際のデータなどを用いて解説する講座もあれば、民間企業の経営者が講義をするものもあり、多角的に学ぶことができるのがこのeラーニングの強みだと感じました。講師陣は第一線の方ばかりで、質の高さを感じました。
受講前は「インバウンドとは?」と聞かれても恥ずかしながら定義をしっかり答えられませんでしたが、eラーニング講座を受講してみて、概要はもちろん、外国人観光客を呼び込む方法など、インバウンド施策のノウハウに関することまで学ぶことができました。講座で施策づくりの前提となる知識を事前にカバーできたので、現地を訪れても地域の方と話を通じ合わせることができました。



──井上さんにとって、地方創生はすでに特別な意味を持ち始めているようですね。


井上:これまでも秩父で、より多くの人に「秩父で生まれ育ってよかったな」と思ってもらえるように活動してきました。今回のプロジェクトは白馬村と小谷村がフィールドでしたけど、白馬村や小谷村で育ってよかったと思う人たちが増えたら、地域はいきいきと動いていくでしょう。自分たちの地域に思いのある方々を活かして、この場所に生まれてよかったなと思える人を育んでいきたい。それが地方創生で自分が目指していきたいところであり、これからのビジョンです。地方創生は自分の人生の課題だと思っています。



──今後の秩父での活動の展望を教えてください。


井上:3~4カ月に1回行っている大きな企画、「秩父歴史探究」(秩父神社編、秩父札所編など)と、1~2カ月に1回行っている商店街でのナイトバザール、キャンプ場でのハロウィンイベント、長瀞着物で街歩き、秩父銘仙を着てランウェイを歩く、といった地域とつながるためのミニ企画はこれからも続けていきます。直近の大きな企画は24年3月に開催する「秩父歴史探究~養蚕・産業編~」です。秩父市には約100年前までは養蚕農家さんが6,500軒くらいあったのに、今はなんとたった1軒のみ。このままでは消滅してしまう、やるしかない!と企画しました。今に至る秩父の歴史と人にスポットをあて、秩父を誇れるまちにするという最終目標に向かって、仲間と一緒にがんばります。


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今回のプロジェクトで学んだことを活かして今後も地元秩父を中心に地域を元気にする活動を進めていくという(写真中央が井上さん)


──これから地方創生に取り組んでいく同世代の学生にむけてメッセージをお願いします。


井上:地方に行くと文化や風土の違いに戸惑うこともあるかもしれませんが、地域の方々と話してみると人の心のあたたかさにふれることができるし、感謝をいただくことも多いです。地方創生の世界では私たち若い人の力が求められているので、恐れずに、ぜひ胸を張って飛び込んでいただければうれしいです。地方にはまちづくりに熱心な方やキーマンとなる若者が必ずいます。白馬村と小谷村でも「ここが世界一のまちだと思っている」とおっしゃる方がいました。もし地方創生にあまり興味がない東京の学生でも、そうした方とふれあうことで自然に心が地方創生の世界へ動くと思います。




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井上 遼一郎さん
(いのうえ・りょういちろう)

法政大学キャリアデザイン学部2年

[プロフィール]
埼玉県秩父市出身。埼玉県立熊谷高等学校を経て、現在は法政大学キャリアデザイン学部在学中。高校2年生の冬に新型コロナウイルスの影響で学校が一斉臨時休業となったのを機に、生まれ育った秩父への思いがつのり地域の問題に目覚める。大学入学後は、NPO法人全国てらこやネットワーク、一般社団法人Japan Education Labでの活動のほか、子どもたちに地元秩父を知ってもらう活動を展開する「こどものまちプロジェクト」を自ら立ち上げるなど、地域と関わる活動を精力的に進めている。

主な受講分野