ちいきん会特設コーナー

 (取材・構成 プレジデント社地方創生プロジェクトチーム) 

地方初開催となる「第3回 ちいきん会in福島」を記念した特別コンテンツです。

HealtheeOne 異業種や市民を巻き込んでの医療の業務支援で、地域課題の解決を目指す

起業を支えた地域金融機関


03.jpg いわき信用組合
理事長
江尻次郎氏

 その小柳氏の起業を支えた金融機関がある。いわき市に本店を置く、いわき信用組合である。1948年に創立され、4万2000人余の組合員を擁し、地元に密着した経営を行ってきた。


 いわき市の人口は34万人。かつて地域経済を支えていたのは石炭だったが、エネルギーの主役が石油へと移った後は、臨海部や内陸部での工業化が進み、製造品出荷額は1兆円を超えるなど、東北1位の時期が続いた。だが、2008年のリーマンショック、さらには東日本大震災、原発事故の影響で不振に陥り、水産業や観光業も大きな打撃を受けた。


 「震災後の復興需要も落ち着いてきて、ここ2年ほどは景気が踊り場にさしかかっているというのが実感です。私が理事長になってから、とくに力を入れているのが創業支援。とくに震災以降、地域で廃業が相次ぎ、事業者は減っていく。このままでは大変なことになると危機感を持ちました」



 語るのは、いわき信用組合理事長の江尻次郎氏である。理事長の指示のもと、全国信用協同組合連合会などと共同で、地域課題解決型のベンチャー企業にリスクマネーを出資する地域活性化のためのファンド、「磐城国(いわきのくに)地域振興ファンド」を2015年10月に設立した。


 「その投資案件の第1号がHealtheeOneなのです。いま金融機関は金融庁から『事業性評価』を求められていますが、その中でいちばん大切なのは人、経営者です。小柳さんのビジョン、経験、事業にかける情熱を伺って、ぜひ応援したいと思いました」


04.jpg いわき信用組合
常勤理事 地域開発部長
本多洋八氏

 投資判断の実務を担当したのは、常勤理事・地域開発部長の本多洋八氏である。


「このファンドができて2ヵ月後、小柳さんにお話を伺ったことがきっかけでした。事前に聞いていた経歴から、当日は分厚い資料を、プロジェクターを使って説明をされるのかなと思っていたのですが、現れた小柳さんはタブレットを手にしているだけ。開口一番『今日は私という人間を知っていただきたく参りました』とおっしゃったのです」


 面談終了後、本多氏は直ちに理事長に報告。ファンドを共同で運営する専門家とともに再度、小柳氏に話を聞いて事業性評価を始め、翌年3月にはスタートアップの資金の一部を、ファンドから投資することとなった。以後、このファンドは、県内初の地域商社の設立に出資したほか、まちづくり、農業の新システム開発など多方面の分野で、累計8件の起業を支援。 本多氏が続ける。


 「経営者の方は、四十代前半までの方が多い。ファンド設立の目的の一つが、東京圏にある仕組みと同じものを作って、それを使っていわき市で起業してもらうこと」


 こうした投資ファンドは、担保や保証人を前提とした旧来型の融資手法とはまったく異なり、通常の融資では難しい案件への対応が可能になる反面、リスクを引き受けることになる。


「ファンドを設立する際、理事長はわれわれ実務担当者に、万が一、このファンドでリターンを得られなくても、設立の理念に沿い、当組合が地域の健全なリスクを応分に負担する覚悟で運営しなさいと指示されました」


 こうしたファンドを組成している信用組合は全国で4信用組合だけ。江尻理事長はその理由を説明する。


「なぜ、やらないのか。それは儲からないからですよ。運営するだけでも相応の経費がかかる。株式上場を期待して投資しているわけでもなく、利益を生み出すようになった段階で、出資金を償還していただくようなスキームです。リスキーな上に、事業を見守る我慢強さがなければ、つくれません。万一、すべてが損失となっても、それは地域経済へのお返し、という覚悟がなければ創業・新事業は育てられません。従来のビジネスモデルに、われわれは地域との強いつながりを基軸とするソーシャルキャピタル・社会関係資本という考えを入れました。地域の人と人とのつながりや信頼、それに替わるキャピタルはない、ということです」