地方創生「連携・交流ひろば」 | 地方創生のノウハウ共有掲示板と実践事例紹介ritokei島×地方創生 第2回島×地方創生 第2回 奄美大島(1ページ)

島×地方創生「一周まわって最先端」の島づくりを離島経済新聞社がレポート

「ない」から生まれる創造力の「ある」島へ

vol.02

奄美大島


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都市と島、島と人、人と仕事をつなぐ奄美大島の動き

鹿児島から南に約380キロメートルの位置に浮かぶ奄美大島は、日本の離島では佐渡島に次いで大きな島である。


アクセスは飛行機か船。飛行機は羽田、成田、伊丹、関西、福岡、那覇、喜界島、徳之島、与論の9空港につながり、船は鹿児島本土〜沖縄本島をつなぐフェリーがほぼ毎日就航。いずれかのルートで人々が島を往来している。


2014年には格安航空会社(LCC)も就航を開始した奄美大島は、近年、来島者を増やしている。一方、多くの地域と同じく、高齢化や人口流出による人口減少に歯止めのかからない島では、UIターンの促進や、働く場づくりに注力する取り組みも目立つ。


増える来島者や、UIターンをいかに島へ招き入れるか。全国的にも注目される“奄美らしい”取り組みを紹介したい。


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■島の課題を解決し、訪れる人にも暮らす人にもやさしい宿泊施設


島を訪れる人の中には「地元の暮らしを体験してみたい」と思い抱く人がいる。そんな人々の期待に応える宿泊施設に「伝泊(でんぱく)」がある。


「島で暮らすように泊まる」をコンセプトに運営する伝泊の宿泊施設は、その多くが古民家のリノベーション物件である。


独特の形状の平屋や台風対策の生垣など、風土に根ざした工夫がみられる伝統建築の古民家に、来島者が訪れると、集落を良く知るコンシェルジュがチェックインサービスを行う。希望者は集落散策やアクティビティにも参加でき、するりと島の暮らしを体感することができる。

 

住民の生活感が残る古民家ステイには抵抗のあるという人でも快適に滞在できるよう、水回りやWi-Fi設備などは現代的に整備される点も評価が高い。

 

伝泊を展開する奄美イノベーション株式会社の代表 山下保博氏にお話しを伺った。


奄美大島北部の屋仁集落で生まれ育った山下氏は、表参道にオフィスを構える建築事務所「アトリエ・天工人(てくと)」(東京)の代表も務める人である。

 

日本国内はもとより世界を舞台に活躍する建築家として、九州大学で6年間、まちづくりのデザインについて教鞭をとっていた山下氏は、ある時、まちづくりのフィールドワークとしてドイツを訪れ、ベーテルという街で衝撃をうけた。

 

「その街では、さまざまな障害を持つ方と、そうでない方が一緒に生活していたのです。建築という仕事から、まちづくりという仕事に移らねばと強く思いました」。

 

時を同じくして、山下氏のもとには奄美大島で本格的なリゾートヴィラを設計する依頼が舞い込み、毎月12回、島に通う状況が生まれていた。島に帰る度に、地元集落や行政機関から「空き家が増えて困っている」と聞き、地域コミュニティの衰退についても相談を受けることもしばしば。

 

「まずは自分が旗を振り、地元からまちづくりを実現させよう」。そう考えた山下氏は、2016年に奄美イノベーション株式会社を立ち上げた。



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■「島の生活を残すこと」と「来訪者の満足度を高めること」を両立


東京に暮らす人にとっての奄美大島の魅力は、大きく3つあると山下氏は語る。

 

1つ目は、11月でも海で泳げる温暖な気候。2つ目は、交通の便の良さ。東京、大阪、福岡、鹿児島、沖縄から1日に約50便の飛行機が就航する地方は、そう多くはない。そして3つ目が独特の文化と人の温かさだ。奄美大島の人々が当たり前とするコミュニケーションは、都会の人にとっては「懐かしく、心を揺さぶる体験」となるという。


来島者がそんな体験を得られるよう、伝泊には「島で暮らすように泊まる」というコンセプトを設定し、そのための重要な要素として「地域の人々の協力」を得られる仕組みをデザインした。

 

伝泊の宿泊者は、地域の人々とコミュニケーションをとりながら、島の行事や島の料理を体験でき、一方の地域側は、地域に新たな商いが生まれ、島らしい風景をつくる伝統家屋を残すこともできる。「島の生活を残すこと」「来訪者の満足度を高めること」の2つを両立させる仕掛けが、伝泊に埋め込まれているのだ。


伝泊は現在、奄美大島だけでなく加計呂麻島や徳之島などにも広がり、各地の空き家を再生している。

 

空き家再生に悩む地域にとっては、喉から手がでるほどのノウハウだが、伝泊が成功するポイントについて山下氏は「地域に根ざした設計者がいるか、宿泊客を誘致したい集落はあるか、そしてなにより、腹を括って金を出す人がいるかですね」と話す。

 

実際、山下氏が最初に手掛けた2棟の伝泊は、ポイント通りだった。

 

土地の風土はその血に流れるほど熟知しており、建築家としての経験も豊富。地元から届く切実な悩みを把握した上で、自ら腹を括り、自己資金や銀行からの借入金を活用しながら、カタチにした伝泊は、全国の過疎地域からも注目を浴びるまちづくりの好例となった。



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■先端技術も活用し、さらなる島づくりを展望


来島者の満足度も叶えている伝泊だが、その根本には常に「島の課題」がある。

 

島の伝統的建築を伝泊として保存する以外にも、地域住民から「コインランドリーが無くて困っている」と聞けば、閉店したカラオケ店をリノベーションし、コインランドリーと格安ドミトリーのある施設をつくった。


地域住民に親しまれていたスーパーが閉店し、そのままになっていた状況を打破するため、高齢者が安心して通える施設とカフェ、ギャラリー、ショップを併設したホテルをつくった。

 

さらに「ラグジュアリーな宿が無くてゲストを呼びにくい」と聞き、リゾートヴィラもつくった。

 

島の課題を解決すると同時に、拡大する交流人口の受け皿となる施設を生んできた山下さんに、今の課題は何かと尋ねると、「島の良さは自分も帰ってきて再認識しているし、外部への発信もだいぶ行われるようになってきた。しかし、島内の二次交通、主要産業であるサトウキビと大島紬のブランド化など、課題は多い」と指摘する。

 

島もこれから高齢化社会を迎える。加えて外国人観光客も増える状況のなか、島内を移動する足をレンタカーだけに頼るわけにもいかない。「シェアライドや自動運転などにもいち早く取り組まなければ、訪問先リストから除外されてしまう」と山下さんは、危機感を抱いている。

 

一方、「良い兆候もある」と山下氏。「テレワークやワーケーションなどで、島を訪問した方が島に事務所を構え、移住するケースも出てきた。奄美イノベーションで働きたいという都市部からの若者の応募も多いんです」と話し、新たな取り組みとして、AIと量子コンピュータを使った情報分析により、来島者や地元住民に、より快適な暮らしを提供できる仕組みの研究に着手していることも教えてくれた。

 

島への愛情と、豊富な知見を持って行われる伝泊は、かつて見たドイツのベーテルのように、誰にとっても優しいまちづくりを具現化している。