「大分県フラッグショップ・坐来大分」

東京銀座で“大分ブランド”を発信し続ける 人気レストラン

「これで商売になるのか?」を払拭したのは“こだわりを貫くこと”

 「坐来大分」は最初から順調だったのだろうか?
 設立当初を語ってくれたのは中村政樹マネージャーだ。中村さんは大分県出身ではないが、首都圏での飲食店経営に携わっていた実績を買われて、立ち上げ時から1年半、「坐来大分」に関わった。その後、別の飲食店に勤務し、再び戻ってマネージャーに就任した。
 その飲食店のプロが見ても最初の「坐来大分」は「これで商売になるのか?」と不安になったという。例えば、当時は空前の芋焼酎ブームだったが、焼酎は大分特産の麦焼酎しか置いていない。当たり前だがメニューは大分一色だ。スタッフにも不安があった。語り部は全員、地元大分で採用したので東京で働くのは初めての人ばかり。しかも元は新聞記者やバスガイド、温泉旅館の従業員で、飲食店勤務の経験者はゼロだった。
 「ただ、大分への想いが強い人が多く、“語り部”としての力だけはすごくありました」と中村さん。そして「不安でしたが、いざ開店してみると十分に勝負になりました。要は“どれだけこだわり抜いてやるか”ということなのでしょうね。“大分”という一つのキーワードでどれだけ“とんがって”やっていくか。現在の坐来大分があるのは、それを貫いた結果だと思います」と話す。

料理のコンセプトを守り、サービスの充実や県のバックアップも力に

 人間も“とんがって”いれば風当たりは強いが、正しいとんがりならやがて信念として尊重される。その臨界点をいつ越えるか、どうしたら越えられるか、なのだろう。開店当初は「坐来大分」にも、大分県出身者から「なんでこんな高い店にした?」「ちゃんとした『りゅうきゅう』出さんね?」という厳しい言葉があった。「けれど、“郷土料理になりすぎず、郷土色豊かでありながら洗練されたものを作る”というコンセプトは守りました」(中村マネージャー)。「すべてを郷土料理にしてしまうと、普通の田舎料理になってしまう。郷土料理を再現するところもありますが、メリハリをつけています。『郷土料理そのものではない』といわれても、『食べるときどうしたらおいしくなるかを考えてこうしました』と理由を説明すると納得していただけます」(安心院総料理長)。何を言われても一番大切なコンセプトは変えなかった。

「りゅうきゅう」と並ぶ大分の郷土料理「あつめし」
漬けにしたブリなどをご飯にのせ、出汁でいただく

 さらに成功の要因を、中村マネージャーは「顧客情報を共有するなどのサービスに力を入れたことも蓄積となり、今はリピーターも多いです。そして県のバックアップも大きい。
 坐来大分は大分県東京事務所に隣接しています。隣に県の東京事務所があるレストランはそうないでしょう。ごく近いので、レストラン幹部と県担当者との定期的な会議も週1回の頻度で顔を合わせて行えます。情報交換が密になり、意思決定も早いと思います。レストラン側から『こんな食材がほしい』という相談もしやすいし、逆に県から『この食材を使ってみてはどうか』という提案もあります。レストランだけでは地元の食材を見つけられないことも多いが、県の農政担当者が加工品も含めて食材や生産者を見つけてくれます。
 また、坐来大分を会場にして、東京のメディアを招いて地元の魅力を発信する情報交換会を行うことがあるのですが、レストラン側としてもそれは地元の食材や郷土料理を知る機会になります」と語った。

大切なのは“全員認識”と「レストランとして勝つ」という気迫

 県のバックアップもあるが、その分、「坐来大分」が担う役目も大きい。
 安心院総料理長は「ここでの仕事は多岐に及び、制約もあります。正直、大変です」と話す。「素材や郷土料理の勉強をして、料理の質を上げ、生産者の支援や県のPRに努め、レストランとしての実績も残さなければならない。大分ブランド確立のための首都圏の拠点ですから、『この食材が高いから、他県の安い素材に変えましょう』ということはできません。やり続けるには、坐来大分が何を目指し、何の目的でこういう形態なのか、どんな役目を担っているか、調理場の若いスタッフも語り部も、従業員全員で認識していることが必要です」と続けた。
 さらに「日本中の名店が集まる銀座で、レストランとして選ばれるには、まず料理がおいしくないといけません。レストランとして勝っていかないといけないんです」という総料理長の言葉に、「坐来大分」の気迫を感じる。そこに行政の機関だから、というような逃げも甘えも一切ない。廣田主幹は「私が坐来大分の担当になってまず驚いたのは、毎日、坐来大分をどうしたらもっと発展させられるか、真剣な議論が行われることです。関係者全員がまだ“成功した”とは思っていないと思います」。「坐来大分」の進化は続く。

ダイニングでは大きな窓に夜の銀座の風景が広がる

(取材・文)中元 千恵子
(取材協力)大分県東京事務所、風土47編集部
(取材日)2020年1月吉日

【参考】
大分県フラッグショップ「坐来大分」
https://zarai.jp/