地方創生「連携・交流ひろば」 | 地方創生のノウハウ共有掲示板と実践事例紹介日本全国 地域の宝 郷土食×地方創生食でかがやく「まち・ひと・しごと」山口県萩市大島『萩大島船団丸/株式会社GHIBLI』(2/3)

山口県萩市大島『萩大島船団丸/株式会社GHIBLI』

日本の豊かな海を未来につなぐ、“よそもの”のロマンとソロバン

“よそもの”だから見えてきた萩市大島と日本の漁業の課題

日本国内の漁業・養殖業の生産量の推移
1984年の1,282万トンをピークに、2016年には約1/3にあたる436万トンにまで落ち込んでいる
「漁業・養殖業の国内生産の動向(水産庁)」(※2)

 日本の漁業は着実に衰退している。図にあるように、日本の漁業・養殖業はここ約30年間で1/3まで減少。それは萩市大島の漁業においても同様であり、打開策のひとつとして作り上げたのが「粋粋BOX」である。
 きっかけは、「粋粋BOX」立ち上げのもう一人の中心人物である「萩大島船団丸」船団長の長岡秀洋さんの存在だ。彼は地元漁師として働いてきたが、この先、萩市大島の漁業が成り立たないのではないかという強い危機感を感じていた。
 坪内さんと長岡さんは、2011年1月にある会合で知り合う。坪内さんは当時、萩市内に移住してシングルマザーとして翻訳やコンサルティング事業を立ち上げたばかり。長岡さんは名刺作成などを坪内さんにお願いし始めていたが、その年はじまった、農林水産省による「六次産業化・地産地消法に基づく事業計画の認定について」(※3)を知った長岡さんは、坪内さんに相談を持ちかけ、萩市大島の漁業の6次産業化を目指した事業モデルの構築と、申請書類作成を依頼した。

 「計画書を作成すること自体初めてでしたし、何より“よそもの”でしたから、萩市大島の漁業に関して全くの素人でした。そこで、萩市大島および周辺の漁業の問題点を、自分自身で徹底的にリサーチしました。すると、ここでの漁業の課題はもちろん、日本全体の漁業の問題点――収穫量の減少、旧態依然の流通、管理体制などーーも見えてきました。萩市大島の課題を解決することは、日本の海を守ることにつながる。そう思い、申請書にもそのことを盛り込みました」(坪内さん)

 申請のため、長岡さんの漁船をはじめとする漁船3隻が集まり「萩大島船団丸」を結成。その代表に、“よそもの”ながら書類作成を担当した坪内さんが就任。何度かの修正を経て計画書は受理され、2011年5月、「萩大島船団丸」は中四国の認定事業者第1号となった。
 だが、ここからが「戦い」の連続だった。まず、市場を通さず直接販売するモデルに、今まで取引していた市場関係者や漁協と折り合いをつける必要があった。そのなかで、仲間であるはずの漁師たちから反発が生まれる。市場関係者や漁協との関係を悪くしたくなかったのだ。その矛先はすべて坪内さんに集まり、事業を進めようとすると、何事にも注文をつけられる。怒鳴られ、否定される。ただ、坪内さんはひるむことなく激しく反論した。そのなかで解決する具体的な方法を提案し、相手を納得させる努力を続けた。

「気性の荒い漁師たちとの衝突は仕方がない。でも、萩市大島の漁業をなんとかしたい、という思いは共通です。それがわかってもらえると、むしろ純粋な彼らは、衝突後に絆が深まります。一方で、市場関係者や漁協には、従来通りの手数料を払い、共存する意思を示し続けることで、徐々に信頼関係を構築していきました」

衝突や失敗があるから成功は生まれる

 一方で、坪内さんは「粋粋BOX」の販売先開拓の営業マンとして、一人大阪などの繁華街に営業に回ったが、ここでは時間と体力の「戦い」だった。当時4歳の子を朝9時に24時間保育に預け、レンタカーと新幹線で移動し、午後に大阪に到着。1日4件から5件の飲食店に飛び込み営業をし、翌日早朝に萩に帰る生活を送った。当初は追い返され続けたが、独自の勝ちパターンを編み出し、徐々に顧客を獲得していった。

 「まず、お店に入り、お客として実際にその店の魚を食べた後に、実は漁師と仕事をしている……と店の人に話し出すと、みなさん興味を持ってくれることがわかりました。おかげで、一時は10キロも体重が増えました」

 「粋粋BOX」が稼働し始めてからも「戦い」の連続だった。注文が入り、魚を箱詰めするのは漁師の役目だが、彼らはそうした細かい仕事は不慣れだった。結果、詰め方は乱雑で、数も種類も間違える。当然、注文者からクレームが入る。漁師もプライドがあるから謝らない。結局、坪内さんが謝罪し、お詫びの商品を無料で再出荷。受注は増えても、利益は出ない。そんな日々が続いた。
 それでも、坪内さんは諦めず、顧客が満足する仕組みを模索し続けた。顧客を漁師たち一人一人に割り当て、責任を持って対応できるようにした。また、顧客からの要望をLINEでリアルタイムに漁師たちと情報共有・直接連絡できるようにし、間違えが起こりにくい仕組みにした。結果、約2年をかけて現在の「粋粋BOX」のシステムを構築。現在約500件の顧客を獲得している。

「衝突や失敗があれば、その原因を分析し、解決していく。失敗が成功のモデルを生み出すのだと思います。腹が立ったり、へこんだりしたことはありますが、事業自体が間違っているわけではない。一度もこの事業をやめようと思ったことはありません」

萩大島船団丸の漁船内で作業するスタッフたち
高齢化が進む第一次産業において、ここのスタッフは20代、30代と若手も目立つ

 軌道に乗り始めた「萩大島船団丸」は、“よそもの”の若いシングルマザーが漁師を束ねているという話題性も手伝い、メディアに取り上げられ始める。そしてそれを見た“よそもの”から、働きたいという声が届き始めた。他の一次産業が盛んな地域同様、高齢化の進む萩市大島に、新たな雇用が生まれ始めたのだ。そして入社した“よそもの”は、特に販売の分野などで漁師たちにはない能力を発揮し、「粋粋BOX」の安定拡大に貢献していった。