千葉県いすみ市『いすみ市役所』

学校給食が導き出す オーガニックと地域の可能性

 学校給食。子どもたちが等しく、栄養バランスの良い食事をとる機会を作るためにできた仕組みだが、近年は地域ごとに特色ある取り組み事例が目立つ。特にここ数年注目されるのが、千葉県いすみ市の学校給食の取り組みだ。ここでの学校給食のお米は、100%地元産「オーガニック=有機米」(※1)。過去に類を見ないこの事例は、全国に共通する農業の課題と、子どもによりよい食を提供したいという生活者の願いを同時に解決し、地域の新たな可能性を引き出そうとしている。

いすみ市役所 農林課 生産戦略班
所一幸班長(左)/鮫田晋主査(中)/間宮淳史主事(右)

 いすみ市は、2005年に千葉県の房総半島の太平洋側に面した「夷隅(いすみ)町」「大原町」「岬町」の3町が合併し、誕生した。もともと稲作が盛んな地域だが、2013年までは有機農業で稲作をする農家はゼロだった。同年より、市と有機稲作の専門研究所、農協、千葉県、地元農業者が連携した体制を構築し、本格的な有機稲作をスタート。初年度は3軒からはじまり、6年で25軒に増加。生産面積は約100倍に増加した。そのお米を2015年より市内にある13の小中学校の学校給食に導入、2018年に全量有機米を達成した。今回取材した3名は、現在同市で有機農業を担当している。

<千葉県いすみ市>
人口:約3万8,000人 ※2020年2月時点
面積:約157㎢
いすみ市HP:http://www.city.isumi.lg.jp/
いすみの有機米「いすみっこ」HP:http://isumikko.com/

4年連続移住人気ランキング1位 近年は学校給食に注目が集まる

いすみ市内の学校給食の様子
市内すべての小中学校の給食のお米が、いすみ市産のオーガニック米である

宝島社『田舎暮らしの本』2月号、「2020年版住みたい田舎ベストランキング」
いすみ市は首都圏エリアで4年連続総合1位を獲得

 地方創生の成果を数値化するのは難しいが、その一つの評価の参考になるのが、「住みたいまち」などの調査ランキングである。なかでも、地方エリアの移住をテーマにした雑誌『田舎暮らしの本』(宝島社)では、毎年『「住みたい田舎」ランキング』を発表、全国の市区町村を人口別、エリア別にランキングしている。
 千葉県いすみ市は、過去4年間、首都圏エリアで総合1位を獲得している。関東を代表する住みたい人気のまちである。その要因は、移住専門サイトや空き家バンクの活用など、市が積極的に移住推進策を取ることの効果もあるが、何より、恵まれた住環境の条件が揃っていることにある。
 いすみ市は、東は房総半島の太平洋側に面し、市街地の中心を夷隅川が流れ、海から西に向かってなだらかな丘陵が広がる、日本の地形を象徴する里海、里山に囲まれたエリアである。太平洋を流れる黒潮の影響から、年中温暖な気候に恵まれ、自然が近くにありながら、災害も少なく、暮らしやすい環境が整っている。それでいて東京都市部まで、特急を使えば1時間強でアクセスが可能。利便性との両立も、このまちの暮らしやすさの要因と言える。
 食の豊かさも、いすみ市の特徴である。名産であるタコや伊勢エビを中心に、新鮮な海産物に恵まれ、毎週日曜には大原漁港で「港の朝市」が開催。その海の幸を求め、多くの観光客が訪れる。また、農業も盛んで、特に稲作はまちの主要産業である。まちを流れる夷隅川により、肥沃な土壌と豊富な水資源に恵まれ、古くから良質な米ができる場所として栄えてきた。近年もいすみ地域で育った米は「千葉の三大銘柄」に数えられ、皇室献上米にも選ばれていた。
 そしてここ数年は、いすみ市は食のある取り組みに注目が集まり、新たな市の魅力として全国的に知られるようになった。前出の有機米生産、そして学校給食への100%導入への挑戦である。