千葉県いすみ市『いすみ市役所』

学校給食が導き出す オーガニックと地域の可能性

学校給食は地域の食のリテラシーの象徴

学校給食の次なる目標は、使用する野菜もオーガニックにすることだ
すでに取り組みは始まり、外部有機生産者を迎えた勉強会も開催。写真はその時の様子

 いすみ市の学校給食は、2020年2月公開の映画「いただきます ここは、発酵の楽園」(オオタヴィン監督/イーハトーヴスタジオ)で紹介されるなど、広く注目を集め始めているが、現場ではさらに進化している。米だけでなく、使用する野菜もオーガニックにするための事業が、2018年よりスタートしている。初年度はすでに生産量が確保できる有機ニンジンを中心に導入。現在は小松菜、メークイン、タマネギ、ニラ、ネギ、ダイコンと品種を増やし、多様な野菜が学校給食に使えるよう、生産者を増やし、技術教育や機器整備、生産地確保を進めている。

 「いすみで長年有機農業を続けてきた、近藤立子さんの『学校給食に導入したい』という熱意があったからこそ、野菜の導入も可能になりました。学校給食で使用する野菜は、給食センターの調理器具に合った大きさの仕様に合わせなくてはならず、初年度の導入の際も、近藤さんをはじめとする生産者の方々の負担は大きかったはずです。でも、みなさん粘り強く対応してくれました。そうすると、給食センター側のスタッフも理解が深まり、他の野菜の導入にも意欲を見せはじめました。近藤さんを中心に、若手生産者も増やしていけるよう、市としても最大限サポートしていきたいと思います」(鮫田主査)

 今回の取材で、有機野菜の生産拡大に向けた、農林水産省の補助事業を活用した勉強会に参加させていただいた。近藤さんはじめ、参加者全員が、当日訪れた後輩にあたる外部の若手有機生産者の講師の話を熱心に聞き入り、積極的に質問を投げかける姿があった。この姿勢は、間違いなくいすみ市の有機野菜の生産拡大、学校給食への導入増加と繋がっていくだろう。

 鮫田主査は、改めて学校給食を「地域の食のリテラシー」と表現した。

 「自分が暮らす地域で、子どもが食べる食材が、安全安心なものであり、さらにその地域の環境もよくするものであることに、反対する人は誰もいないと思います。それを実現できるベストな食材がオーガニックであり、その食材のリテラシー(活用能力)を最大限発揮できる場が、学校給食だと今でも思います。
 もし反対意見があるとすれば、それは提供する側や管理する側の理屈や立場の問題で、正直、いすみにもありました。でもそれらは大抵、有機農業と学校給食導入の多面的な価値を提示し、ひとつひとつ理解してもらうことで、クリアできました」

 現在、鮫田主査は有機農業分野のイベントやセミナーを中心に、学校給食の導入事例を紹介している。地方創生全体の広い観点で、いすみ市の事例の価値が広まっていくことを期待している。

(文・写真)種藤 潤(一般社団法人オーガニックヴィレッジジャパン)
(取材協力)いすみ市役所 農林課 生産戦略班
(取材日)2020年1月吉日

【参考】
※1オーガニック/有機について
この記事内でいうオーガニック/有機は、国が定める有機JAS認証で規定されたものではなく、いすみ市が認める無農薬、無化学肥料で育てた農作物を指す表現として使用する。

※2 NPO法人民間稲作研究所
日本の有機稲作のパイオニアの一人である、稲葉光國氏が代表を務める、有機稲作の技術確立に取り組んできた民間の研究所。単に稲作の技術だけでなく、自然環境を生かし利用することで、米を効率的に生産する循環型の方法を研究、各地で講演等を行い伝承している。
https://www.inasaku.org/

※3 豊岡市のコウノトリを中心とした環境共生社会づくり
豊岡市は、一度は絶滅したコウノトリが再び共生できる地域づくりを目指し、農薬や化学肥料に頼らない農業を中心とした自然環境と、その農産物を含む地域資源の事業化の両立を行ってきた。詳しくは豊岡市の事例を参照